わたしを離さないで(カズオ・イシグロ、早川書房)

久しぶりに重くこころに残る小説を読んだ。読んでいる最中に感じた既視感は「アルジャーノンに花束を」だという事を一晩経って思い出した。中学か高校の頃に読んだアルジャーノンにも今回のイシグロの作品と同じように、人間とは何かというテーマが根底にあった。きっと、自分がもっと若い自分にこのイシグロを読んでいたら、人生で影響を与えた本のひとつとなっただろう。
本というのはその内容はもちろんだけど、出合うタイミングが大切だとつくづく感じる。

作中のトミーの成長が美しい。表立っては書かれていないが、クローン人間たちの葛藤や現状からの逃亡欲求などはないのだろうか。
提供を前に、逃げ出す者がいても良いと思うのだが、そのような人物はいない。なぜだろう。

わたしを離さないで

わたしを離さないで