ショートソング

枡野浩一初の長編小説を読む。

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「だめよ、そんな服じゃ」
……「ごめん」も「待った?」もなく、いきなり舞子先輩は言った。小雨の降る寒い寒い吉祥寺駅サーティワンの前で二十五分も待っていた僕に。
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おそらく、この書き出しを読むだけで10人中6人くらいは読むのをやめてしまうのではないだろうか。
1行目はまだよい。
2行目、登場人物がいきない女の先輩。このシチュエーションから始まることに嫌悪感を感じる人はいるだろう。名前も舞子で、さらにいきなり言われるところから、主人公がM男である事が予感される。

次に場所が吉祥寺であること。なんかおしゃれさを出している。さらに雨ではなく、小雨とわざわざ限定しているところに優しさを表現しているようで気持ち悪さを感じる。「寒い寒い」と繰り返しているところは論外。

わざわざサーティワンの固有名詞をだすところも意味不明。
サーティワンからどんなイメージ喚起を作者は期待しているのだろうか。

待ち時間が25分と細かいところ。

さらに最後の「僕に」の倒置法の使い方。

などなどで、読むのを止めてしまう人がいるだろうが、そこはなんとか広い心で受け止めて、ぜひその先を読み進めて欲しい。
初の長編小説なんだから、書き出しに力が入りすぎてもご愛嬌というものだろう。

かなり欠陥のある人だが、枡野浩一は面白い人だ。
短歌をちりばめた小説なんて今まであっただろうか。

一つの歌を読み味わっているうちに通勤電車は目的地についてしまう。
仕事の空き時間にもつい、歌の背景を想像してしまう。

小説+短歌なので、とてもコストパフォーマンスのいい本だ。

入り口で躓いたとしても、是非中まで入って欲しい。
(大人なんだから間口は広く取って欲しかった。)

今までも何度も短歌を作ろうと思ってきたが、なかなか才能と努力が足りずに出来なかった。
もう32歳だし、ひとつ歌でも作ってみよう。

ショートソング (集英社文庫)

ショートソング (集英社文庫)